教室の中を犬が歩き、時間の中ほどで水のサービスがある。
「おばさん、お茶がいい!」
「先生、コーヒー」
なんてとぼけた声が聞こえる。「色の付いた水はだめ」とやり返す。
もう、先生の貫禄なんて丸でない。何しろほとんどの子供は小学校の低学年から中学卒業まで在籍しくれる。小学生のクラスはアメリカ人とペアを組んで教えていたこともあって、先生はアメリカ人、私はおばさんなのである。
おばさんだって、先生だってどっちでもいい。単なる呼称。ほとんどの生徒がこの大先生を「おばさん!」と呼ぶ。そのうち「おかあーさん!」ときた。皆で爆笑。
すると、もう一人が言った。
「あたし(学校の)先生をおばさん、って言っちゃった」
ハチャメチャな教室ではある。
小学生で私の教室に通っていた子供たちの中には、私立中学校に通う子供がいる。私立中学に入学すると、当然のように教室をやめていく。中学で英語が好きになってくれることを内心願いながら、送り出す。
そんな中、某有名女子大の付属中学校に入ったお嬢さんが入塾を希望してきた。私どもは地域の中学校の勉強が中心の教室だから、彼女の勉強は個人的には見られない旨を告げた。それでもいいということで入塾をお受けした。
私の自作、カンタンシリーズの精神があふれている教材を毎時間さっさと片付けていた。 そして或るときこんなことを口にした。
「私のひいおばあさまは津田梅子さんとお友達なんです」
私は瞬時「まあ! すごい! サラブレット。私の教室で満足してくれるのかしら?」と考えたが、いつものように、私はいつものように変わらず私流を通していた。
とうとう三年間在籍した。私の授業もまんざらではないと一人ほくそえんだ。其の後、東大に入ったと聞く。見るからに大和なでしこの風貌の彼女のたくましさに唖然とした。彼女の存在はある意味で私に大きな自信を与えてくれた。忘れられない一人である。
もうひとつ私の塾がほかの塾と決定的に違うところがある。それは保護者会をせず、親の顔はみたことがないという、全くもって不遜な塾(?)であった。まあ親御さんに不満や希望があれば、出向いてくださるだろうと高をくくっていたのだろう。入塾の時さえ、友達と来るか、生徒一人でやってくる。 でも地域の学校の生徒が8割、なんとなく、親御さんと顔見知りになってしまうものである。
お買い物に出た折に出会う生徒のお母さんに幾度となく言われたことがある。
「ほかの塾には行きたがらないのですが、先生のところには喜んでいくんですよ!」
私は思わず「遊ばせているみたいですみません」なんて言ってしまいます。
私みたいなおばさん先生では頼りないのか、超熱心な家庭には敬遠されていたのかもしれない。でも時々、熱心な親もいる。
入塾して初めての通知表を手にして、我が家に飛びこんできた父親がいた。成績が上がっていないという。3,4ヶ月でトップに躍り出るなんて、ちょっとセッカチと思いつつ、ご丁寧に当方の主義主張を申し上げる。 「では、よろしく」と帰られた。納得してくださったのだろう。その後も引き続き在籍して、無事Aクラスの高校に進学した。ご丁寧に件のお父様がその旨挨拶に見えた。めでたし、めでたし。
まあ大人気ないといえば、大人げなかった。
保護者会をやらないと生徒にとばっちりがいくのだろうか。毎レッスン必ずやらせるワークの中に、教科書を日本文にしたものをカンタン英作文に従って英文に書きなおす時間がある。特に一年のときは厳しくやる。時間をかけて大文字、小文字の使い方、コンマ、ピリオドの使い方など徹底してやらせる。 生徒によっては何度も書き直しをさせられる。
あるとき、書き直しをさせられた1年の男子生徒が
「先生、こんなことやっていていいのかな?」
と私に疑問を投げかけてきた。つまり私のやり方に対してである。
日本文を英語にすることは、英文を理解するにも、将来の英会話の下地を作るうえにもとても大切なことであると位置づけている、私の塾の根幹に関する批判に私は怒ってしまった。
「それはあなたの意見なの? 親の意見なの?
これは私が譲れないものだから、いやなら、やめなさい。」
なんて中学1年のまだ初々しい生徒に言い切った。でも彼氏、わが塾に3年間在籍した。その後もすべて私流で押し通した。その生徒は大学で中国語を学んでいると聞いた。中国との交流が盛んになったいま、彼の先見の明に驚愕し、彼の成功を祈っている。
英語の必要性が声高に言われる今、私の手法は誤っていなかったと自画自賛している。学校の先生が聞いたら卒倒してしまいそうなことを、私は生徒に薦めた。高校での英語の対策は教科書ガイドで勉強すること。毎年卒業生にはガイドを買うようにと図書券を卒業祝いにプレゼントした。 ガイドとハサミは使いようと言いたいほど、ガイド(英語)は役に立つ。
図書券を受け取った卒業生の母親が飛んできた。私を攻めにきた。「ガイドなんてとんでもない」と言うことだった。
「ガイドで勉強できるようにちゃんと育てておきました。
家庭教師につかなくても、あまりはっきり教えてくれない先生に当たっても、一人でわかるようになっています」
単語を辞書で調べる時間は覚える時間に当てたほうがよいと力説した。 今多くの英語の雑誌には単語の注釈が付いている。単語さえわかれば、英語の雑誌だって気楽に読める、と言っているように。卒業生の多くが予想を超えた大学に進学をしているのを見て、私はとても幸せを感じている。もちろん彼らの能力があってのものですが。
高校に入ると急に英語が分からなくなるといいます。高校英語をガイドで勉強できるってすばらしいことです。分からないと悩むよりは、家庭教師につくよりは一人でガイドで勉強できるほうがすばらしいことです。しかし、それには2つの条件があります。その1、新出単語を読むために発音記号がわかること。その2、中学校で習う文法が100%理解できていること。これだけで高校英語の予習、復習は完璧に一人で出来ます。
ちなみに新出単語は辞書で調べないでガイドを見る。辞書で適訳を探して時間を掛けるよりは、単語のつづりを覚えたり、他出版社のガイド付き教科書を読んだほうがまし。これ、私の塾の卒業生に送る言葉でした。英語らしい英語を書くために辞書と首っ引きになる日もそのうちくる。
塾は限られた短時間の中ですべてをクリアしなければなりません。単語の読み書き、文法事項の説明、テスト対策、等々。塾が生徒の皆さんに月謝の代価にお渡しするものは、目には見えない知識です。それだけに塾のよしあしを決めるのは難しいものがあります。短時間のうちに大事なことが身に付くように工夫された教材がカンタンシリーズです。 音はアルファベット70音カンタン学習法で、文法、語法は日本文を英文に変える英作文を中心にした手作りのカンタン英作文学習法を考案し、それらの教材を用いてクラス運営をしました。
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